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石川啄木(たくぼく)がこんな歌を詠んでいます。
友がみな 我より偉く見ゆる日よ 花を買ひ来て妻と親しむ
何かの集まりがあって昔の友と出会う機会があったのでしょう。羽振りの良い友人らに比べ、歌詠みをしながら日々を食いつないでいる自分の何というみじめなことか。屈辱と劣等感に打ちひしがれたとき、啄木は意外な行動に出ます。花屋に立ち寄りなけなしの金をはたいて花を買い、自宅に戻り妻に花を渡して喜ばせ、一緒に観賞しながら落ち込んだ心を明るくさせたのです。
若いころ、バレー部の指導中、主力の選手を注意したら横着な態度をとったので、こちらも大人げもなく逆ギレしてしまい、練習の空気を最悪にしたことがありました。怒りが収まらないので勢いに任せ、そこにいた1年生部員に肉食うから俺の家に集合しろと伝え、 安いステーキを大量に買って昼食会をしました。うまそうに肉にかぶりつく部員たちの姿を見ているうちに次第に心がいやされ、僕の分まで食われてしまったのでお腹はすいたままでしたが、心は満腹になりました。
今年の1月6日の中日新聞に、中学2年生で作家デビューした鈴木るりかさんの記事が載っていました。彼女のデビュー作『さようなら、田中さん』の中で、自殺を考えた少年に、主人公花美ちゃんのお母さんがこんなことを言います。
「死にたいくらい悲しいことがあったら、とりあえずメシを食え」
啄木の花とバレー部の肉と小説のメシ。この三つの逸話は微妙にリンクしています。
つらいこと、悲しいことがあったら、とりあえず、うれしいこと、楽しいことをやってバランスをとればよいということです。
卒業生の諸君、卒業おめでとう。
これからの人生、嫌なこといっぱいあるかも知れない。でもそんなときはお小遣いをはたいて美味しいものを食べなさい。買うの我慢していた服買って自分を華やかにドレスアップしなさい。大好きな友達と思い切りしゃべって思いっ切り笑いなさい。
そうやってバランスをとれば次の日もやっていける。立ち直るのもきっと早い。
そして、「とりあえずメシを食え」には、心の痛みを治してくれる妙薬は「時間」だというメッセージもあります。とりあえず食べて、とりあえず寝て、いやなこと忘れ、次の朝またゆっくり歩き始めてください。君たちの未来はいつも光に満ちています。
以上は、卒業生に送る言葉としてPTA新聞に載せた内容ですが、とても分かりやすいメッセージだと思うので、ここで公開します。
それともう一つ、3学期の終業式では昨年の入学式で使ったネタをまた使いました。
4年まえのアカデミー賞で主演男優賞に輝いたマシュー・マコノヒーが授賞式で語ったセリフです。あまりにかっこいいので再度紹介しました。
彼はこんなことを言いました。
「僕にとってのヒーローは10年後の僕自身さ。僕はいつだってそいつを追っかけてる」
これは僕も実践したいとても素敵な言葉です。ぜひ、皆さんも10年後の自分を追いかけてください。
この3月で定年退職を迎え、野洲高校を去ります。
2年間校長として生徒たちに一番言いたかったことは、自分に自信を持てということ、野洲高校生であることに誇りを持てということでした。
誰もがそれぞれ「持ち味」を持っています。
それを活かして色んなステージで活躍してほしいということ。自分が人生でなすべき役割を早く見つけ社会貢献してほしいということ。つまり誰もが役割をもって生まれ、誰もが必要とされているのだということ。
スピーチの最後に僕がよく使うフレーズ。「君たちの未来はいつも光に包まれている」
大好きなうちの生徒たち、ご支援くださった保護者や地域の皆さま、同窓会の方々、西村教育長はじめ野洲市教育委員会の皆さま、自信もって言いますが同僚性県下ナンバーワンのうちの先生方、本校を様々なお立場で支えてくださったすべての皆様に深く感謝申しあげ、これからも野洲高校を応援くださいますようお願い申しあげまして、私の校長日記を閉じます。
本当にありがとうございました。またどこかでお会いする日まで。さようなら。